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写真が好きな、あの子の本音。
camell「zines」

STORY
2026.07.14

彼女が選んだ、人生のベストショット | えぬさん

「あの人の、人生のベストショットはどんな1枚なんだろう。」
そんな素朴な興味から始まったこの企画。
ひとりのカメラ女子にフォーカスし、写真のこと、そして人生で撮影した“ベストショット”を紐解いていきます。

4人目は、えぬさん。
曖昧な光や、誰かの気配が残る情景。
何でもない風景から、そっと物語を採集するような写真を撮る彼女にとって、カメラは「呼吸の一部」なのだといいます。

一度は離れた時期もあったカメラ。それでも戻ってきたのは、なぜだったのでしょう。
彼女が選んだ“人生のベストショット”には、どんな想いが込められているのでしょうか。

PROFILE

愛称:えぬ さん
カメラ歴:通算6年ほど
Instagram:@n_non_nonfiction
note:@taro_throughlens
愛機:Nikon Z50
レンズ:NIKKOR Z 28mm f/2.8、NIKKOR Z DX 50-250mm f/4.5-6.3、AF-S DX Micro NIKKOR 40mm f/2.8G、Soligor / Miranda 50mm f/1.9
そのほか:RICOH CX4、SONY RX100M5a

トイカメラから始まった、わたしの「写真」

えぬさんとカメラの出会いは、ずっと昔まで遡ります。小学生の頃、習い事の旅行で持たせてもらったインスタントカメラ。その日出会った友達との思い出を、夢中で撮っていたそうです。

高校の修学旅行では、カメラ好きのお父さんがフィルムカメラをたくさん持たせてくれた。旅やイベントのたびにカメラを持っていく習慣は、大人になる前から自然と身についていました。

自分の意思で「写真を撮る」時間が始まったのは、最初に買ったトイカメラ、VISTA QUESTのVQ1015から。モニターレスで、家に帰ってパソコンに繋ぐまで何が撮れたか分からない。設定もできず、思い通りにはいかない。失敗か、大当たりか——その極端さに、毎回わくわくしたといいます。

その思い出が忘れられず、つい同じ機種の同じカラーを買い直してしまったほどです。

見えたままを、描いていい

実は、ずっとカメラを続けてきたわけではないといいます。ライフイベントに追われ、10年ほどほとんど触らなかった時期も。それでも、ふと思い出して撮り始めたとき、久しぶりに「世界を立ち止まって見る」ことができて、とてもすがすがしかった。「やっぱりこれは、自分の呼吸の一部なんだ」と感じたそうです。

思えば中学の頃、美術の授業で森へ写生に行った日のこと。午前の淡い光を浴びて、一本だけ水色に輝いて見える木があった。水色で描いていいのか悩みながらも思い切って絵の具をのせると、友達が「その見え方がいいね」と褒めてくれた。見えたまま、あるがままを描く喜びを知った日でした。

小学生の頃には、毎日一句、俳句を詠む課題が2年間。その日の出来事をぎゅっと17文字に凝縮し、翌日読み返してまた情景をふくらませる。一瞬を圧縮し、時間を置いてもう一度味わう——その感覚は、写真とよく似ているのかもしれません。

曖昧な時間に、シャッターを切る

えぬさんが一番好きなのは、午後から夕暮れまでの時間。オールドレンズで逆光を狙いながら、「今日はマジックアワーが来るかな」と待つ時間まで含めて好きなのだといいます。来るか来ないか分からない、その不安定さも愛おしい。「いつかマジックアワー予報士になりたいくらい」と笑います。

夕方でも夜でもない、曖昧な時間。境界線が曖昧であればあるほど、被写体の“らしさ”が出るから惹かれる。季節ごとにしたくなるレタッチも違って、春はコントラストを弱めに、夏は強めに、秋は緑の彩度を落とし、冬は青みを少し。どの季節にも、その時にしかない味わいがあるといいます。

惹かれる被写体は、人物がいないのに、その人の人格が写り込むような情景。色あせた看板、落とし物、破れたサドルの自転車。街に残された小さな痕跡から、その向こうの誰かを想像するのが好きなのだそうです。

何でもない風景から、物語を採集する

「何でもない風景から、物語を採集してくるような写真」。それが自分らしさだと、えぬさんは言います。そう言ってもらえることが、何より嬉しい。

工事現場では、整列したコーンに秩序を感じたり、ビニールに包まれたコーンを見て「過保護だな」と思ったり。物に感情をラベリングして撮っていくのが好きなのかもしれない、と。その視点の奥には、過去を真剣に生きてきた人たちへの、尊敬や敬愛があるといいます。

写真を見た人には、好きでも嫌いでも、どんな感情でもいいから、何かを感じてほしい。「無味乾燥な写真は撮りたくない。嫌な感情だって、誰かの心が動いた証拠だから」。その言葉に、彼女の写真への姿勢が表れています。

写真は、自分を整理する時間

えぬさんにとって写真は、「自分の解像度を上げる手段」であり、「本当の気持ちを探る手段」。

1〜2週間に一度、写真を印刷して眺め、感じた言葉を付箋にどんどん書き出していく。タイトルをつけ、その時どう思っていたのかを味わい、印象ごとにファイリングする。ネガティブな気持ちも含めて、もう一度向き合う。写真を整理することは、自分を整理することでもあるのだと。

数日撮らないと、体がムズムズしてくる。休憩が15分あれば、コンデジを持って外へ出て、スナップを撮って帰ってくることも。カメラがあると、ありのままの自分に戻れる。だから写真を撮ることは、彼女にとって「なければならないもの」。呼吸のような存在なのです。

BEST SHOT

今回えぬさんが選んでくれたのは、大阪・太陽の塔の1枚。

何か月も前から見に行きたいと思っていた場所。camellの忘年会でたまたま旅行券が当たり、意を決して、人生ほぼ初めての大阪へひとりで向かいました。

ところが、初めて対面した太陽の塔は、まさかの大雪。菜の花の上にも、うっすらと雪が積もっていた。吹雪いて視界はきかないけれど、だからこそ幻想的で、夢の中にいるような光景に、夢中でシャッターを切りました。

「こんな素敵な日に出会えることは、二度とない気がする。でも、また奇跡を起こして、これ以上の日にここへ来られると信じている」。そんな想いの詰まった、特別な1枚です。

これからも、写真とともに

これから挑戦したいのは、表現の幅を広げること。日常にあるもので自作フィルターを作ったり、カメラ用品ではないもので前ボケを作ったり。

写真を冊子にまとめるのも夢のひとつ。ページごとに紙を変えたり、トレーシングペーパーに刷った写真の後ろに真逆の意味を持つ写真を重ねたり。アナログな多重露光のように、一枚では見えないストーリーを編んでみたい。紙以外の素材に刷ったり、自分でフレームを作ったり——「どうしたら自分の写真が一番輝くか」まで含めて、表現していきたいといいます。

一度は離れても、また戻ってきたカメラ。それはやっぱり、彼女の呼吸の一部だから。

何でもない風景の奥にある物語を、これからもそっと採集しながら。
えぬさんの写真には、消えゆくものや誰かの気配を慈しむ、やさしいまなざしが宿っていました。

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